畿内からみた幕藩制社会2014年08月17日 10:49

朝尾直弘著作集の第二巻。19篇の短めの論文を収める。第一部が幕末を対象にしたもの、第二部が畿内を中心とした実証論文、第三部が近世史研究に関するもの。

畿内からみた幕藩制社会

第二部の実証論文が興味を惹く。

「十七世紀における産業構造の特質」
1630~40年代に刊行された俳諧書から、諸国の名産を記載するくだりを紹介する。今でこそ、日本全国各地の名産品には多種多様なものがあるが、当時、畿内を別とすれば、作物や商品の流通は限られていた様子。おそらく、地産地消が中心で、人も物も行き来は限られ、京都や大阪を遠く離れた人には、住んでいる地域が全てであって、日本全国を意識することなどなかったのではないか。今の私たちとは、意識の持ち方もずいぶん違ったであろうと思わせる。

「上方からみた元和・寛永期の細川藩」
この当時から、税収以上の支出をもって国の財政を運営するのが常態であったというのには驚く。藩の力を削ぐために幕府が支出を強要した面はあるのだろうが、資金を融通する銀行の類いが業として成立し、そこに資金を投ずる小口の投資家が多数いたというのは、現在に通じる。藩の方も、トヨタやソニーではないが、資産運用が重要な利益源であったようだ。