日本経済と産業と企業2014年11月13日 08:16


日本経済と産業と企業

伊東光晴氏による、1993年の放送大学の教材。1990年代までの日本経済の発展と、時期的にはちょうど過熱していた日米経済摩擦について、および、技術革新を見据えた将来の展望、等を論じる。

さすがに、20年ほど前の執筆であり、バブル崩壊から金融危機、デフレを経た現在、古くなった記述も多い。それでも、現在を知るために、その基底となっている過去の日本経済について理解を深めるには、いまだ有益な示唆を多く含む。なによりも、事実を元にファクト・ファインディングに努める記述はわかりやすい。

p35 寡占価格について
「価格が上がるのは業界内に一様なコスト増があった場合である。それは、原材料の値上がりであり、多く労働組合による賃金の引き上げが、各社一様に生じた時である。」

寡占市場では、競合に負けじとするために、他の要因では価格上昇は生じにくい。円安で輸入価格が上昇し、商品への価格転嫁が進んでいるのは、そのひとつ。しかし、インフレ目標を達成するには、他方、賃上げが必要なことが示唆されている。大企業には賃上げ要請をしているが、政府が本気ならば、最低賃金の上昇を進めるくらいの策が必要のはず。それができないのは、政治的配慮だが、長期的に見て如何。

p136 日米経済摩擦における米国の政策について
「国民は、正しい厳しい道よりも、誤っていても安易な道を選挙で選ぼうとするのを政治家は知っているからである。」

米国の政治家を指していっているが、日本の政治家も変わらないはず。ちょうど、解散論議が出てきている。この点、政治家を批判しても始まらない。各々の政治目的を達成するため取り得る手段を採用するというのは、経営者が営業目的を達成するため行動するのと同じ。有権者がそのことを認識して、自らの行動を変えなくては始まらない。

p161 パートとエキスパートの結合
労働者が、少数の熟練と、多数の非熟練に別れていく様を、寿司ロボット、ファミリーレストラン、スーパーマーケット、コンビニエンスストアの実例をもって示す。情報通信を中心とした技術革新と、よりよいものを安価に求める志向の帰結である。今にして思えば、デフレ、非正規雇用の進展の源泉は、ここにある。改良、改善の結果なだけに、対応は簡単でない。伊東氏の現在のアベノミクス批判の根本のひとつはここにあるように思う。