Cheek by Jowl2016年07月03日 16:55


Cheek by Jowl

Ursula K. Le Guinがファンタジーについて、また、自身の著作について語る小編を集めたもの。
2009年刊。

・文学としてのファンタジー

ファンタジーが、文学として正当に評価されないこと、荒唐無稽であると評されること、無価値と断じられること、を論じる。出版される本の数を見れば、日本に比べてずいぶんジャンルとして確立しているようにも見えるのだが、悩みは尽きないらしい。

これに対し、ファンタジーは、伝説や神話など原初の物語に通じる世界であり、未知のものへの橋渡しをする力があるという。それは、子供が大人の世界に向かうときの橋渡しであり、知らない土地や人びとと相対するときの橋渡しでもある。

逆に言うと、明確なメッセージを有するもの、実利に役立つもの、常識のうちにあるもの、でなければ、正しい文学と認めない層も、米国ではそれなりに多勢であるようす。最近の内向きの世論の動向を伝える報道を見ていると、これを裏付けているのかも。

・動物と人との物語

関わり合いのしかたに応じて、いくつかに分類し、それぞれの読むべき本を紹介してくれる。ドリトル先生の話など、有名な話も多いが、動物の出てくるお話を探すときにはいい案内になる。ディズニー好きには、少々耳が痛い話も。

・自作のEarthseaの物語(ゲド戦記)の創作にまつわる話

本書では、この部分が取り上げられることが多いのかも。持ち込みがなかなか成功しない中、初めて出版社から子供向きのファンタジーの依頼を受けたこと。いったんは断ったものの、Tolkienなどの作品中の登場人物が大人ばかりなのを思い出し、彼ら(Gandalfなど)は、どのような人生を経て老練な魔術師になったのか、その最初に戻って描いたらどうだろう、と思いつき、まだ、手がけた作家がいないことに驚きつつも、創作に没頭したこと。

最初の本の出版後、読み直してみると、ArchmageやDragonlord、など、書いているときには意識していなかったが、そのままにされた事柄が多くあることに気づき、それらについて語るうち、自ずと続編が生まれたこと。読者からの手紙で、矛盾を問われて、新たな物語が登場したこと。最後は、もはや子供向きの物語とは言えなくなってきたけど、読者も成長しているからと、書かなければいけないと信じる物語を書き貫いたこと。等々、創作論とは言えないかもしれないが、そのときどきの率直な思いを教えてくれる。

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