シャーロック・ホームズの冒険2020年03月28日 17:32

国内でパブリックドメンの本というと、青空文庫が有名。では、英語の本では?と探してみると、Standard EBOOKSHathiTrust Digital Libraryなどがあることがわかる。

Standard EBooks

試しにと、最初の頃に挑戦したシャーロック・ホームズものを読む。Kindleフォーマットのものをダウンロードし、Kindleに登録。

新訳版

そういえば、翻訳も、少年文庫的なものしか読んでないような、ということで、角川の新しめの翻訳を選んで一緒に読み進める。

Penguin Books

英語の本の方は、かつて、Penguin Booksで持っていた本と変わらない印象。挿絵はないが、Kindleで読みやすいように整えられている。Kindle用には、ホームズの物語は、有料無料含めていろいろAmazonで入手できる。手許にも安価なもの作品集が、ひとつあるが、段組が崩れている箇所があったり、とりあえず電子化しました、というレベルのもの。それに比べると、よい出来。

最後から2つめの"The Adventure of the Beryl Coronet"では、コナン君も引用していたように記憶している有名な台詞を発見。Kindleの位置情報で4329/4899あたり。

"It is an old maxim of mine that when you have excluded the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth."
不可能を取り除いていった先、そこに残ったもの、それがいかに本当とは思えないものであっても、まず間違いなく真実、真相である。

翻訳の方は、用語の選択やセリフ回しに、少々の違和感。ホームズが、あまり賢そうな姿で浮かび上がってこない。これは、ジェレミー・ブレットのTVドラマの印象が強いせいかも。翻訳で印象はずいぶんと変わるもの、と改めて印象づけられる。

DVD Book

ジェレミー・ブレットのTVドラマのDVD BOOK。付属の冊子には、台詞が対訳で載っている。元の本の台詞とほぼ変わらないが、映像化にあたり、どう取捨したかを見るのも勉強になる。

いのちとは何か2020年03月09日 13:57


いのちとは何か

本庶先生の本。研究についてならブルーバックスがよいのだろうが、深淵を覗いた研究者の生命観みたいなものが読めないものかと、こちらを選択。雑誌「科学」の連載をまとめたもの。感染症に対する免疫の働きを述べる章もあり、時宜に適う。

深く突っ込んだ議論というほどではないが、全般を通して、生命についてバランスの取れた立ち位置を教えてくれる。「生命科学を教養課程における必修科目とすべきである(P.117)」と主張するのも道理。

その帰結が、「生命科学からわれわれが学ぶことは、われわれが幸福を感じるような生き方自身が生命のあり方に適応しているということである(P.121)」という一文であろうか。

人間も生物である、そのことを改めて認識させてくれる一冊。

こんなもん いかがっすかあ、SFまで10000光年2020年01月10日 08:05


水玉さん

「こんなもん いかがっすかあ」が1990年代前半くらいのPCまわりのネタ。「SFまで10000光年」は1990年代前半から2000年代前半に掛けての、SFを軸にしつつも、コミック、文学、ゲーム、映画、演劇、等々の雑多なネタ。なにより、水玉さんの絵柄が好き。両書ともしっかり楽しめる。

内容については、「SFまで10000光年」で、大森望さんが、あとがきに書かれているとおり。同じ時間を生きている人に向けた一筆。後世に残す気持ちは微塵も。月刊誌への寄稿としては正しい姿。おそらく、しばらく経てば、時間を共有しない人には、注釈なしではわからなくなる。時代の空気の証言としては、貴重。

「こんなもん いかがっすかあ」
一方では、予言の書。冗談で書いた事物が、20年後くらいにいくつも登場している。統合ソフト搭載のジャスト名刺サイズのデバイス。データスーツ入力デバイス。ゲーマー向けにお世話をやく一太郎。賢いワープロとしての、日本語翻訳機能。これはもう一息か。妙に一太郎ネタが多い。等々。

「SFまで10000光年」
その意味では名言集。迷言か。
「オレは一生誤読し続ける方のコースを激走(笑)していきたいな(P105)」
ちょっと共感。
「”ヒトでない自分”を悲しむAI、ってゆーのが、そもそもヒトの勝手な考えじゃないかと(P109)」
AIブームの度に、繰り返される議論。
「あとから学習して知ったってアンタにはわからない部分ってのがあるんだよ(P154)」
スターウォーズの新作に対して、馴染みのひとこと。時宜にピッタリ。スターウォーズ歌舞伎は、場面こそ違えぞ、予言が成就(P157)。

続きの「SFまで10万光年」。掲載誌のバックナンバはあるのだけど、やはりまとまっているのは魅力。購入してしまう。

ソシオエコノミックス、西部邁の経済思想入門2019年10月18日 16:37


ソシオエコノミックス

昭和50年刊。1975年。学生時代の参考書を発掘。西部氏の最初の頃の著作。

最初の数頁で、たいへん読みにくい本であったことを思い出す。特にプロローグが厳しい。用語に、その用法も独特。「頭のいい人」の文章。多数の文献とその研究を踏まえた本であるが、そこから導かれる道筋をかみ砕き、再構成することなく提示する。おそらく著者は、多数の研究をそのままの形で頭に入れ、自由に出し入れできる才の持ち主。そうでない読者は、自らかみ砕き、再構成しながらでないと、論旨が頭に入ってこない。

しかし、経済学の諸理論が単純化に走りすぎ、人間や社会といった複雑なものとの関連を忘れがちであり、専門分化した諸学問は協同して、この複雑な対象を解明すべき、との視座は確か。

「あれこれ間に合わせの政策提案を根拠づけるために消費者主権や生産者主権といった「虚偽の意識」を持ち込むより、現実がどうであるかということにかんするイメージを確かなものにするほうが優先する(P192)」といったあたりは、今そこにある社会とその成り立ちを見据えるべきとし、将来の保守の論客としての立ち位置を予感させる。

「孤立学として発展してきた経済システムは、人間と自然と社会組織を破壊する(P267)」と論破し、当時の公害問題を踏まえつつも、現在進行中のグローバル化やSNSなどのコミュニケーションツールを用いた経済行動の弊害をも予見する。

「必需品とは、共同の社会的枠組みをつくり、そのことによって社会の安定に寄与する財のこと(P290)」といい、幸福や平等といった理念のレベルで思考を止めるのではなく、実質に考えを進めて答えを導く姿勢を求める。

学問の過程を、直感、仮説の定立、検証、実践、と進むものとすれば、本書は直感の少し先に位置するくらい。本書では、実践に身を投じた宇沢氏を評価するふうでありながら、本人は経済学と距離を置き、論客として活躍することになる。

西部邁の経済思想入門

2012年刊。こちらは、増補分を考えれば、最後の方の著作。

はじめに、で、経済学と距離を置いた理由を告白。いろいろわかってしまった、というところなのだろうが。これが、数理の世界なら、わからないことが自明、となったはずだけど。

本書は、うって変わって読みやすく、わかりやすい。順番からいうと、こちらを頭に入れて、ソシオエコノミックスを手に取るのが正しい。経済学における研究の過程が、その研究を生み出した社会的要請に、その後の評価と共に整理されている。著者のバイアスがあるにしても、十分、中立の立場で、現在での評価を示してくれる。

合間に主張される論は、ソシオエコノミックスでなされた論と驚くほどぶれがなく、一貫している。最後の章「総合の経済思想」は、学際研究が必ずしもうまくいっていないことを示しつつも、経済学を含む社会科学の可能性を信じる言葉で閉じる。

芭蕉の方法2019年08月25日 17:08


芭蕉の方法

岩波の図書を毎月読んでいると、年に一度ほど、歌仙が登場する。読み手の評があるので、おおよそのところはわかるが、基本的な理解を深めておきたいと手に取る。

連歌、連句の説明は中程から。猿蓑の「市中は」歌仙の解説をその後に収める。前半は、詩を読むこと、書き手との関係、について、考えることが中心。連句を手っ取り早く知りたい、という向きには、まどろっこしい。

どうも、散文ばかりを読んできたためか、詩歌にはなじめない。古今にしても、現代詩にしても、集中がつづかない。漢詩はそこそこ。ところが、まどろっこしさを感じていた前半の考察は、詩を楽しむヒントを示唆していると気づく。思わぬ収穫。さて、余白と飛躍、この二つを意識していけば、もう少しなんとかできるか。

幻想の経済成長 - The Growth Delusion2019年07月03日 09:16


幻想の経済成長

政策ツールとして偏重されるGDPについて、成り立ち、功罪、代替指標、などについて、多数の国におよぶインタビューや取材を通じて明らかにしようとする。

専門書というより一般書との位置づけなので、読みやすいが、同じような話が繰り返され、やや冗長ぎみ。SFやファンタジーでも、これでもかとエピソードを詰め込む本が多いが、これは英米の読者の好みによるのかも。経済番組などで論を張る経済成長論者と正面切った議論があれば、もっと迫力が出た。

GDPの効用と限界を理解しつつ、各国の目指すところに従い、いくつかの指標を併用すること。経済指標を耳にする私たちが、それを鵜呑みにせず、その意味するところを理解するように努めること。このあたりが、本書の一応の回答といったところ。

株式市場などが、単純なAIの活用で、経済成長偏重の判断をしているようなのが、懸念。有権者の変化を、実際の政策判断の変化に向かわせる障碍になりかねない。ここでも技術者の倫理が問われる。

ヘーゲル復権 思想2019年1月2019年06月30日 11:37


ヘーゲル復権

積ん読の精神現象学あたりをなんとかしようかと、と手に取る。編集者の説明などはなく、論文が並ぶだけの体裁。順番に読むとすっと入る、というわけでもなさそう。

西洋の哲学に明るい訳ではない身では、「ヘーゲル論理学の意味論的解釈」、「復活するヘーゲル形而上学」、「行為者性の社会理論」、あたりから読むのがよさそう。アリストテレスあたりから、カント、ヘーゲル、現代に至る流れを先に掴んでおきたい。

「貧者は承認されうるのか?」
悪しき良心→自然状態への回帰→野生化、野蛮化
富むものも賤民になり得る、という下りは、妙に得心がいく。
1900年代にヘーゲルが危惧し、解決策を見いだせなかったこと。そこに、マルクスが革命の可能性を感じたこと。
深読みすると、先々の世界大戦への途をひらいたのかとも。
歴史のときどきに見られる現象に思えるが、現在の状況をも説明するものなのか。

トマス・アクィナス「神学大全」2019年06月29日 11:03


神学大全

「神学大全」の紹介や要約ではなく、論集。13世紀の神学者の思想、考えたことが、現代の私たちにとって、「挑戦の書」である、という立場で論じていく。

読書中、頭から離れなかったのは、キリスト教世界の内なる議論にとどまるのではないか、現実の多様な価値観がある中でどこまで説得性を持つのか、ということ。「神」は、「近づくべきもの」「愛の対象」との姿勢に、どこまで得心がいくのか。

「神」や「仏」、人によって思い浮かべるものはそれぞれ。「山の神」「海の神」「地の神」ではないが、お世話になっているけど、近くて遠いもの、いざとなると猛威を振るうもの、おこぼれに与るもの、畏れるもの、隔絶したもの、という捉え方だと、共感を得にくい。

人とゴールを同じくする愛が存する、ことにリアリティを感じるか、そこが分かれ目。そうであれば、断絶を超える存在の意味が大きく現れる。

第七章、法の支配における「共通善」を論じるが、近代以降では「憲法」にその役割を期待している、と理解している。憲法判例を読んでいるとにじみ出てくるものがある。素の社会契約説のままではない。「憲法」に込められた思いは、各国それぞれではあるけど。