維摩経2021年01月17日 18:09


維摩経
ebook japanの電子版。底本は、初版1966年の16刷。大乗の初期の経典群のひとつ。解説によると、般若経の思想を受けて成立したもの。2世紀頃までか。

俗世から距離を置いてのお寺の修行、というイメージと異なり、世間にあって、人との関わりを通じての思索と行動を説く、というあり方が新鮮。とはいえ、その説く内容は、酷い現実であっても心の救いをもたらす一方、現実の変革力を持つのか、とも考えてしまう。

解説によると、唐の詩人、王維。字は摩詰。本書からとったものとは面白い(P.256)。

消費者契約法改正 - ジュリスト2019年1月2020年11月29日 20:56


ジュリスト2019年1月

特集は、「消費者契約法改正」。冒頭は、いつものように座談会。消費者側、事業者側、研究者側のそれぞれ。

事業者側は、抽象度が高い条文は事業を萎縮させる効果が高いので、内容を明確にしたい、行政法並みの努力を求めたい、と(P.25)。これまでであれば、判例の蓄積を待つ、ところだが、社会の変化が速く、それを待てない。

それならば、何でもお上が決める「行政国家」のほうがいいとなりかねない。経営者も、民主主義の担い手の一人、とすれば、予測可能性に頼りすぎず、不確実性に対する応分の負担は必要、と捉えることも必要か。

三者の議論がかみ合うようでかみ合っていない。どうも、それぞれの消費者像に差異がある。消費者の実態は千差万別であることを考えると、見ている場所が異なる。

結果、改正によって実現したのはわずか(P.71)。コンセンサス主義の限界と指摘するが、社会の変化が速いときの立法の難しさを表している。だからといって、被害の後追い立法、しかできないというのも。

冒頭の、裁判官に聴く、は、労働訴訟。新規受件数は、リーマンショック以後、毎年3000件台の高止まり(P.iii)。裁判にいたるケースはほんの一部だったはずが、ずいぶん増えている。権利意識の高まりというよりも、事態の深刻さを示している。

実際の審理では、就業規則の定め方如何が争点の設定に大きく影響する(P.87)。就業規則は大事。

相続法改正と実務 - ジュリスト2018年12月2020年11月18日 20:24


ジュリスト2018年12月

特集は、「相続法改正と実務」。40年ぶりの改正。ひとつは、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の制定。さらに、配偶者居住権と配偶者短期居住権の新設。等々。

平成29年度の死亡者数は、約134万人。その中で、公正証書による遺言書、それ以外の遺言書で検認されたもの、あわせて12.7万通。約1割の人が遺言書を作成しているという(P.46)。法務局での保管制度は、それ以外の遺言書の検認手続を不要とするもの。金融機関は歓迎しているようだが(P.48)、利用は進むかどうか。近所の法務局で調べてみると、保管料は4000円ほど。相続する側からすると、公正証書で残してくれた方が手間は少ないらしい。

配偶者居住権は、建物についてのもの(P.44)。居住権を相続で選んだ配偶者は、終身で住居は確保できることが大きいが、後にお金が必要になっても現金化ができない。別途、所有者との間で、買い取り請求権を合意するなどの運用が必要か。相続によって所有者になった人にとっては、所有権が大きく制限される。この居住権、実際の評価額はどうなるか。実務の趨勢を確認したい。なお、パートナーシップ制は対象外。これからの課題。

連載「債権法改正と実務上の課題」は、最終回。解除と損害賠償。工場経営者が、近所の火災の延焼で工場が被災し、契約した製品の納品ができなくなったときにどうなるか、といった例を元に議論を進める。契約を結んで債務を負うことの意味と責任について、軽々に考えてはいけない。経験ある会社経営者には自明かもしれないが、ある日、勤め人をやめて個人事業主となった身にはそうでもないかもしれない。覚悟のいる話。

Werner Vogels (Amazon CTO) 14年越しのインタビュー2020年11月16日 20:40


Werner Vogels

ACMの会誌にAmazon CTOのWerner Vogels氏のインタビュー記事が掲載。14年前の記事にさすがと唸ったのを思い出す。今回、主にS3のサービスを取り上げ、飛躍的に拡大し、複雑化した今に至る取り組みと現状を語る。

当時(2006年)、S3のサービスは8つ。2019年は262。システムのデザインの基本は変わらない。自分たちは、「プラットフォーム」ではなく、「道具(ツール)」を作るのだという。プラットフォームの例としてWin32や.NETの体系を挙げ、これらは大規模で複雑で、使い手とのやりとりを通じて素早く変革を遂げることはできない。だからこそ、小さくて小回りが利く「道具」でなければならない。

世の中の変化の速度が速く、質的にも量的にもビジネスの変化の速度が速くなる、そこを見通しての慧眼。クラウドのサービスは、一見、かつてのメインフレームのサービスに重なるように見えるが、異なる。「道具」とはどんなものか。使い手と作り手の立場から、いくつか例を示す。

後半では、開発チームが巨大になった故の苦労も語られる。新しいサービスが既に廃止を決めたAPIを使おうとしていた、との例を挙げ、情報や知識の共有のあり方について、ヒントを与えてくれる。この悩みからはAmazonといえど、逃れられない。

印象的だったのは、序盤の一文。S3が、インターネットのさまざまなサービスと比べて、数世代は先を走っているのは何故か、との問いに対して、それは先に始めたから、時間の問題に過ぎない。加えるなら、その間、使い手との間で改善や変革のためのやりとりを絶え間なく続けてきたから、と。

それを可能にすることを第一にしたシステムのデザインを徹底できたことが、今のAmazonの姿の根底にはある。


ジュリスト2018年11月 - 知財制度の新たな動き、所有者不明土地、約款2020年08月19日 13:19


ジュリスト2018年11月

特集は、「知財制度の新たな動き」。冒頭に鼎談「知的財産戦略本部の15年」。
「新しい技術が出てきた、新しいコンテンツが出てきたところは、法律が予定していなかったのだから、白紙の分野なのです。アメリカ人はこれは白地だから、自分でやってみる。文句を言われたらやめる」(P.57)
「アメリカ法では「契約を破る自由」ということがいわれておりますが、条約を破って得かどうか、と考える傾向があります。」(P.59)
などと、なかなかにアグレッシブな話が飛び出す。ハリウッドやシリコンバレーと渡り合うにはこのくらいは必要という意気込み。

連載「知的財産法とビジネスの種」では、そのハリウッドとの交渉の一端を紹介。
「映像化に関していえば著作権譲渡に限りなく近い」(P.72)。そんな条件があたりまえのように提示される。上述の意識が必要とされる所以。

新法の要点は、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の制定」。
・公益のための収容
・不法投棄等による不都合への対処
などの手当て。価値が低いなどの理由で相続手続が放置され、土地建物が放置される実情への対処の一歩。抜本的には、土地基本法等の見直しによる対処が必要、とまとめる。

連載「債権法改正と実務上の課題」では、定型約款を取り上げる。オンライン取引で、約款を読むよう迫られることの背景がよくわかる。また、不当条項と不意打ち条項を詳説。

この中で信義則の要請を次のように説明する。
「自分の利益のみを考えて、相手方の利益を配慮しないような態度は許されない」(P.96)
大企業と消費者の間の契約という局面だから通用する、とは言えるが、他方、知財の世界での獰猛な契約の世界があり、「信義則」はどこまで万国に通じるものか、悩ましい。

判例評釈では、労働契約法20条にまつわる最高裁判例がホット。社会情勢の変化に伴い拡がる再雇用や有期雇用の制度が、既存の労働制度や慣行との間で、木に竹を接ぐような建て付けになっていて難しい。

Febri休刊 - 12月にWeb媒体へ2020年08月18日 17:04


Febri休刊

電子版が今朝配信の雑誌Febri、最後に今号(Vol.62)で休刊のお知らせ。2020年12月にWeb媒体での再出発を目指すとのこと。読み物が充実していて楽しみだったが、ここしばらくは、連載が減り、寂しくなっていたので、まあ、予想されたこと。

記事広告ばかりみたいな雑誌は、メディアとしては、あまり、有意義ではないが、そうでもしないと生き残りは難しいのかも。Courrier Japonでも感じたが、Web媒体は、「編集」による付加価値が見出しにくくなるのが難点。そこらをうまく乗り切ってくれるとうれしい。

Googleなどが進める「無料」の媒体は、必要なコストを「広告」で賄うが故に、「中立」「多様」な視点を養い、維持するコストを賄えていない。既存のメディアには、「中立」「多様」な視点を提供することをうたいながら、それを「特権」として弄ぶものがある。それを良しとしない者が、「無料」の媒体で対抗してきた面もあるが、一巡した形。少なくない人が、気づき始めているが、どのような決着をみるものか。

ジュリスト2018年10月 - 商法(運送・解消関係)等の改正2020年07月24日 20:22


ジュリスト2018年10月

特集は、「商法(運送・解消関係)等の改正。普段は約款のお世話になっており、表には出てこないが、世情にあわせた改正。宅配便やフェリー乗船などの約款の背景が垣間見える。

海上保険実務に触れた一節は、英国の覇権の歴史を写し、興味を惹く。
「国際的な貨物保険や船舶保険で用いられる英文保険証券では、部分的に英国法を適用する旨約定されている(P.47)」
「輸出入等の外航貨物では、保険証券が国際的に流通するため、ロンドンの海上保険市場の約款を元にした英文保険証券が用いられている(P.47)」

コラム(P.62)では、「カスピ海の法的地位に関する条約」を取り上げる。何かと乱暴さが目立つロシアの外交ではあるが、周辺国と協議し法的な安定を目指す姿勢は共通。いろいろともくろみはありそうだけど。

連載「人生100年時代の高年齢雇用」(P.90)では、高齢者雇用の課題を整理し、将来の法整備の方向性を示す。とはいえ、急速な高齢化に、労務の制度や従業員の意識が追いつかない。労働判例研究(P.135)は、定年後再雇用を巡る争いを取り上げるが、難しさの具体例を示す。

ジュリスト2018年9月 - 労働法と独禁法の交錯2020年07月12日 21:33


ジュリスト2018年9月

特集は、「人材獲得競争と法」。公正取引委員会が2018年2月にまとめた「人材と競争政策に関する検討会報告書」を巡る議論。スポーツの世界の話もおもしろいが、フリーランスで働く人、独立自営業者にまつわる話が、働き方改革に絡んで切実。

フリーランス、独立自営業者は、事業者であり、企業と対等な立場でビジネスをする。同じ個人で働いていても、企業に雇用されている労働者とは立場が異なる。力関係の違いから来る不当な扱いに対抗するには、独禁法をはじめとする競争法の活用が必要になる。

「検討会の目的は、働く個人を守るために独禁法を適用することです。全国には6700万人の就業者がいて、380万社の企業があります。労働法も競争法も何も知らない人たちが健全に働いていくための議論なので、限られた専門家だけが内容を理解していて、その人たちだけが独禁法を使えて、あとは裁判で、では、本来の目的を果たさない(P.28)」

実際、公正取引委員会が行った、フリーランサーに対する調査(P.31)は、なかなか厳しい実情を示す。
・代金の支払い遅延が23%
・代金の減額要請が16%
・著しく低い対価での取引要請が30%
・成果物に拘わる権利等の一方的取り扱いが18%

裁判に持ち込めば勝てるにしても、費用も時間も賄えない。

一方、

「終身雇用で働いてきた正社員の3割は「契約書なんて結んだ記憶がありません」と、人材サービス産業協議会が2017年に行った「雇用区分呼称に関する休職者調査」では答えています(P.35)」

正社員がフリーランサーと仕事をする上でも、自身がフリーランサーに転ずるにおいても、契約や法律の立て付けの理解を深めないと、思わぬトラブルや不利益に遭遇する。法の整備はこれからであり、自衛もまた必要。

「時論(P.74)」では、「働き方改革」関連法案の成立を受け、実務への影響を論じる。

法案の成立により、これまでバラバラであった、パートタイム労働、有期労働、派遣労働について、いわゆる正社員との間で、統一的な均衡・均等待遇ルールを設けることになる。

ここで、「名目と実質の離れた手当、趣旨が不明瞭な手当(P.75)」が多数ある実態が問題になる。おそらく労使の長年の交渉や妥協の産物であろうこれらが、正社員とそれ以外の不合理な差別の源泉となる。ここでも問題を放置、先送りしたツケを払わされる。

昨今のリモートワークの導入でも議論が噴出したが、複雑化した仕組みを放置することで、変化や適応を鈍らせることが、競争力減退や差別や格差の増長の一番の理由ではないか。外圧に寄らずに、普段から断捨離したいもの。それができないのなら、新陳代謝。