古文真宝 前集 上下巻2020年05月20日 17:32


古文真宝 前集 上下

古文真宝 前集、上巻と下巻。明治書院の新釈漢文大系から。年がかりでの読了。前集は詩を集め、後集は文章を集める。

原文の読みを試み、書き下し文で確認。和訳で意味を了解。語釈で原文の読みを再確認。あれば余説で豆知識。なかなかの密度。一日1、2時間の読書で、5から10ページくらい。一冊400ページくらいあるので、読み続けても1ヶ月をゆうに越える。一気呵成に読むものでもないので、年がかり。教科書だけでは進捗しなかった読解力も、さすがにこれだけかけると、原文を見て、だいぶ読めるようになってくる。

解説によると、宋末から元初にかけての成立。唐宋の詩が多くを占めるが、古くは漢の高祖の作からと幅広い収録。今の言葉で言えば、漢詩のアンソロジー。底本は、元の至正26年(1366)の刊本をもとに、国内で和刻されたもの。1366年といえば、室町の義満の治世の少し前。その後、江戸時代には、中国本土よりも国内にて人気があったとのこと。明治書院の本書は1967年の刊。

有名どころを多数収めるが、やはり、白楽天(白居易)はいい。長恨歌、琵琶行などを納める。日本語だとロマンチックに過ぎるかもしれないが、訓読体だと収まりがいい。緑や水縁が近くにないと落ち着かない性分には、陶淵明(陶潜)。酒飲みではないので、いい詩とは思っても、李太白(李白)はそこまで。杜子美(杜甫)は、勤め人には共感できるところが多い。怒られるのを覚悟でいうと、現代のサラリーマン川柳にも通じる。あわせて60余名。巻末に作者小伝を付す。

漢籍のはじめは、おそらく中高生の頃、漱石やらの明治の文豪の諸作を読む中で、男子の教養は漢籍である、との記述を見、それならばと、NHKの教育や放送大学の講座を視聴したところから。その当時、手に入れた石川忠久氏の入門書の冒頭は、孟浩然の春暁。今でも諳んじられる。この詩での「多少」は多い方の意。語の意味は変わることを知る。

そのうち、日本の古典も、と。そのひとつに枕草子。香炉峰のくだりで、白楽天につながる。今も昔も作品はつながっていくものと感得。その白楽天の名作というと、長恨歌。ただし、長大な詩なので、教科書などでは、あらましや抜粋まで。全文に当たりたいと図書館を探して、たどりついたのが古文真宝。当時、明治書院の白氏文集の該当巻は、未刊。

とはいえ、高価な本。学生時代に小遣いで手にしたのは、楚辞のみ。社会人になっても、図書館で拾い読みをするまで。それが、転職の折だったか、気を大きくしたときに入手。全集となると揃えたくもなるのが心情だが、資料として必要とするのでもなければ、この類の本は、読むことの質を考え、これぞというものをかぎりに手許に置くのがいい。