荻生徂徠「政談」2023年06月03日 13:43


政談

吉宗への政策提言書と言われるもの。当時の世情をつぶさに伝える。尾藤氏の訳は、かみ砕いた現代の言葉で読みやすい。

多くは当時の社会や文化に根ざしたもので現在に当てはまるものではない。しかし、巻の3、役人や役所に関するもの。ここは、現代のビジネス書としても通じる一節。政談が描かれたのは江戸開闢から100年ほどのこと。戦後80年の現代と世情は通じるものがある。

人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの大いなる旅2023年05月04日 09:38


人類の起源

少々細かな記述があって読み難い箇所もあるが、なんとも刺激的な一冊。古人骨のDNAを紐解くことで、人類がどのように分かれまた混じり、地上に広がっていったか、従来の単純なモデルとは異なる、複雑な、しかしおなじ生物なのだから確かにそのようなものであるはず、と得心させてくれる。

本書によると、やはり中東が重要な結節点。聖書を読むと、同時代の他地域とは一線を画する、現在までみてもほぼ網羅され尽くされているのではと思われる人の生き様の類型、が描かれているが、人の出入りが何度も繰り返された結節点ならばさもありなん、と。

そうした人の伝播の到達点は、北米南米のようだが、それを除くと日本もひとつの行き止まり。淵、止水域。南から北からいくつもの人の流れが到達した地点。それが、日本文化の特質を生み出した要因のひとつなのかも。

東北「海道」の古代史2023年04月16日 12:48


東北「海道」の古代史

奈良時代の頃の東北の有り様を、発掘資料と文字記録を用いて明らかにしようとする。ここでいう東北は、今の茨城、福島、宮城、岩手の南部くらいの地域。蝦夷との最前線が、水沢のあたり(胆沢)。朝鮮半島、中国本土との関係の落ち着きを待って、この地への勢力拡大を本格化させる。

この時重要な役目を担ったのが、太平洋の港々をつなぐ海の道。朝鮮半島とのやりとりでも活躍した紀伊の水軍が、房総(山武市のあたり)を経て、石巻にいたり、北上川の水運を担うことで、上流の最前線への侵攻に力があったのでは、と。意外と近所に接点があったこととあわせ、進路が日本武尊の伝説と呼応するところも面白い。

また、続日本紀の記事によると、住民の移住政策も広く行われたという(P.84)。これは、中国王朝の徙民(しみん)政策そのものといえ、この時期の政策に中国本土の影響が大きかったことを窺わせる。もしかすると、政権を担う人材の面でもそうだったのかもしれない。

古代史というと、畿内や九州の地を扱う本は多いが、東日本に住むものとしてこの地の歴史を教えてくれるのはありがたい。復興した常磐線沿線を旅する楽しみにも大いになる。

水玉さん、広井さんのサイン本2023年04月15日 10:13


サイン本

2020年頃から、水玉さんのエッセイや挿絵を描いた本を手に取ってきたが、そろそろ終いかなと、「元祖水玉本舗」で紹介されていたものをいくつか古本店で入手したところ、サイン本。偶然とはいえ、こんなふうに縁がつながることもある。

くずし字で東海道中膝栗毛を楽しむ2023年04月11日 19:53


くずし字で東海道中膝栗毛を楽しむ

見開きで、右に江戸の版本、左に読み方を活字にしたもの。最初のうちは苦労するが、だんだん読めるようになってくるのが楽しい。とはいえ、旧仮名遣いに慣れていることが前提か。

読めるようになってくると、今度は、当時に特有の言葉が引っかかる。「棒端(ぼうばな)」宿場の入口を示す立て杭、こんなのは知識がないと意味が取れない。

あとは、おそらく版本により、字の選び方や草書の崩し方が違うであろうこと、そのところは数をこなしていかないといけないか。ちょっと、和本の古書店に立ち寄ってみようかと思える一冊。

元祖水玉本舗2023年04月09日 11:12


元祖水玉本舗

またまた、水玉螢之丞さんのエッセイ集。今度はゲーム編。

実のところ、掲載されているゲームのうち、実際に遊んだことのあるのはわずか。いくつかは遊んでみたことのあるものもあって、あぁ~そうくるか、という感じ。それでも、連載されていた1990年代の空気を実によく伝えてくれる。読んでいるあいだ、どっぷりその時代に浸る感覚になるのは、水玉さんのエッセイならでは。

紹介されているゲームのいくつかは、リメイク版がでていて、それを探してみるのも楽しい。当時のものは遊べなくなっていても、シリーズが続いているものもあって、時代に合わせた変遷を見るのも面白い。遊べなくなったものの方が大半だけど、きっとそのエッセンスは今のゲームたちに受け継がれているはず。

江戸文化再考2023年04月06日 10:31


江戸文化再考

江戸の文化を、近代の目から見て役立つかどうかで判断するのではなく、そのものの自然な発展段階として捉えよう、平成の世になってそれがようやくできるようになったと、著者は述懐する。

そうすると、江戸の300年。おおよそ17,18,19世紀。それぞれ、青年期、壮年期、老年期。現在は、明治から数えて150年。第二次大戦から数えて80年。壮年期か、青年期の終わりか。これからのあり方を探る上で、江戸の経験は示唆に富むはず、と。

文章は、講演の語り口のまま。図版が充実している他方、イメージでの提供なので、小さなKindleではちょっと読みにくい。PC等の大きな画面と併用して読むのがいい。

移動迷宮 - 中国史SFアンソロジー2023年03月31日 18:50


移動迷宮

中国史を題材、ということで手に取った一冊。

全体の印象は、若い。
これから様々な作品を下敷きに書き継がれていき、いろいろなお約束も生まれ、複層的な言葉の世界が編まれ、成熟していくであろう、その始まりに立ち会った感じ。

中国史SFという点で、一番それらしいのは、冒頭のフェイダオの「孔子、泰山に登る」。儒教の本を読んでいてよく引かれる一節などが登場し、くすぐられる。

こなれたSFらしさ、という点では、パオシューの「時の祝福」。ウェルズのタイムマシンのオマージュともいえる逸品。

中国史SFの可能性を感じさせるのは、末尾を飾るシアジアの「永夏の夢」。中国の人でなければ書けないだろう作品。

日本に比べれば、歴史も地域性も広大な国なだけに、宝の原石はまだまだたくさん埋まっているはず。できれば、文化の転換点を担う人物や時代を取り上げた作品を読んでみたいもの。