アベノミクス批判2014年10月26日 00:32

伊東氏が病床からおして、これだけは述べておきたい、との強い思いが伝わってくる。

アベノミクス批判

・量的・質的緩和については、評価にはもう少し時間を要するのではないか。とはいえ、米国やEUとの政策を揃え、日本が狩り場にならないようにする、という消極的な側面が強そう。本書が批判するマネタリストにおもねているに過ぎない、のかもしれないが。経済報道を見る限り、一定の評価を得ており、その点ではうまくいっているように見える。

・経済成長政策は、確かに姿がよく見えないが、努力している関係者の声も聞かれる。これも、評価には時間がかかる。ただし、本書が指摘するように、高齢化、労働生産人口の減少、といった重要な問題が先送りされるだけにならないよう、しっかり見ていくことが必要。

・最終章は政権批判。いろいろな意見があろうが、戦前戦後を生きた先人の言葉を重く受けとめたい。

それにしても感じるのは、実際の数値に基づく評価が進んで欲しいということ。本書もいろいろな数字を挙げるが、一面に止まるとの印象。そして、経済学が力を失っていること。今更、米国の主流な議論を紹介し、敷衍するだけでは、物足りない。経済ニュースで、英国のKay Reviewが紹介されたことがあったが、いろんな論点があるはず。
グローバル化が進んでいるといっても、各国それぞれの事情がある。FRBと同じ政策だから正しい、では、説得力はもたない。

高度成長の謎

伊東氏の考え方については、先日、放送大学でアーカイブスの一つとして、日本経済と産業と企業'93の第8回「高度成長の謎」を放映していたが、これでよく知ることができる。理論を事実から突き詰める、ファクトファインディングを貫く姿勢が示される。いつでも試聴できるわけではないのが残念。

この回の講義では、製鉄業や石油化学工業の発展について論じるが、製鉄業については、次の要素を挙げる。

・工場誘致政策
 企業が投資回収を短期で行えるよう、工場用地の提供や社会資本の整備、税制優遇を行う。
・臨海への立地政策
 原料の鉄鉱石や石炭などを安価に搬入でき、製品を安価に搬出できる臨海に立地させる。
・外国技術の導入
 海外を含め、当時の最新の技術を導入する。
・最新設計思想
 新技術を大胆に導入し、効率を重視した設備の設計を行う。
・習熟効果
 以上の結果を他の向上に横展開していく。

こうしてみると、同じ経済成長政策といっても、今とはずいぶん条件が異なることがわかる。環境アセスメント等がしっかり求められる。優れた立地条件を備えた海外との競争がある。技術は各国各社横並びで自ら開発しなければならない。等々。こうした下地があるからこそ、第三の矢が実効性を持って見えてこない、と主張できる。

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