伊藤博文演説集2023年08月17日 12:59


伊藤博文演説集

文庫の小説3冊分ほどの分量。なかなかの大部。漢文口調の二重否定が多出するので、慣れるまでが大変。

収録演説数は39。有名なサンフランシスコでの「日の丸演説」を筆頭に、憲法制定にまつわるもの、憲法制定から10年ほど経って西日本を中心に漫遊したときのもの(14本)、韓国統監としてのもの(11本)、などを収める。

戦前の、戦争に突き進む政治の流れに導く何かの示唆はないかと読み始めたが、伊藤の姿勢はどちらかというとそれに抗するもの。

主権のよって立つ根拠には天皇の神聖性を置く。しかし、専制政治は否定する。歴史的にもそうであると説く。支配層である天皇と人民は、聖徳太子を引いて「和」をもって歩んできた。したがって、立憲政治を導入して、人民が議会を通じて参与することは、自然なことである、と。

憲法をはじめとする法制度の整備は、欧米諸国との不平等条約を解消することに本義があったといえるが、実際の国家運営でも意義を唱えていたといえる。

経済重視、実学重視の姿勢。その前提として、連邦制の性格を持つ幕藩体制では、国力が分散して欧米に互していけない、故の明治新政府による中央集権体制の樹立。国家間の争議の根底にあるのは、主に経済問題であることを見抜き、経済力の増強を訴える。

中国、韓国の国情の分析。これは、「朝鮮儒教の二千年(講談社学術文庫)」を読んでいたから理解できるもの。読み書きそろばんといった実用が浸透していた江戸の日本とはずいぶんと異なり、現在の感覚では誤解しやすい。

演説では、論敵への非難は避けているが、苦悩の様子は伝わってくる。では、彼等を導いたものは何であったのか。これは次の課題。

読み応えのある演説の数々であったが、こうなると戦後政治家の演説をまとめたものもほしくなってくる。伊藤博文に劣らぬものが揃っていないと寂しい。

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