霧の王2014年07月19日 08:46


霧の王

久しぶりに本格的なファンタジー。ドイツの作家 Susanne Gerdom の霧の王。

主人公は、大きな館に住み込みで勤める少女サリー。サリーが知るのは、仕事場の厨房と共同の寝所、中庭の菜園、それと図書館くらい。図書館で読む本の中に「道路」や「広場」と書かれてあっても、それがどのようなものか想像がつかない。実際、館の住人達は、何らかの事情で空間的、時間的に閉じ込められている。サリーは、その中をさまよううち、その事情を少しずつ紐解いていく。とはいえ、サリーの成長譚という趣ではない。知らず知らずのうちに事実に近づいていってしまう。

建物の中を歩きまわる夢を見た後、夢の中では部屋や通路の位置関係は整合しているつもりだったのに、思い起こすとめちゃくちゃ、ということがある。サリーが彷徨する館は、そんな印象。住人にもそんなところがある。本人達は、整合の取れた生活をしているつもりだが、読み手はずれを感じる。そのずれの感覚は、ゆくゆくはサリーにも伝播していく。

作者の別の本を読みたいとAmazonを探し見ると、本書の他はドイツ語版のみ。英語への翻訳もない様子。そう考えると、数は多くないにしても、英語の本以外も翻訳に努める日本の読書事情はなかなか得がたいもの。