近世封建社会の基礎構造2014年08月10日 18:36


近世封建社会の基礎構造

朝尾直弘著作集、2004年の刊行。10年ほど、本棚に眠っていた。第一巻、9400円。今なら買えない価格。しかも、予約出版。それほど歴史に関心が高いわけでなし、なぜ、予約してまで入手しようとしたのか。雑誌「図書」の案内がそれほど魅力的だったのか、何か文章を書くにあたり歴史の見方をしっかりさせておきたいとでも思ったのか。ともあれ、今、読むことができる幸せ。

第一巻は、豊臣から徳川の治世が確立する頃の畿内の農村のありよう、舟運を核とした流通、経済の要の地位を確立していく大阪、幕藩によるこれら支配のありよう、を論ずる。論文自体は1960年代のものなので、説は古くなっているのかもしれないが、「歴史に学ぶ」とはどういうことか体感させてくれる。

・小農民層が、技術革新を背景に生産力を高めるとともに力をつけ、支配的地位にいた庄屋層と肩を並べていく流れと、幕府が地場の有力者を介した支配から、より直接的な支配を目指す流れが呼応して進んでいく。幕府の政策により、世の中がこう変わった、という説明がよくされるが、それは一面でしかない。

・田畑の開発や、水利事業などにおいて、民間活用はこの時代から採用されていた。これらを通して実力をつけた新興の大企業(商人)が、地場の企業(実力者)を駆逐する流れも、今に通じる。これに、政府(幕府)が積極的に介在することにより、政策目的(新秩序の構築)を達成しようと努めていたことも同じ。

・関ヶ原のあと、畿内以西の支配を幕府はすぐに確立できたのではない。今で言うと、徳川が豊臣にM&Aを仕掛け、吸収合併していくがごとし。トップはすぐに入れ替えるものの、現場の責任者は残し、業務は支障なく継続させる。有力者を送り込み、十分な権限を与えた上、組織改革に乗り出す。古い考えから抜けない責任者は徐々に更迭する。新しいやり方が浸透したら、有力者を廃し、中央からの統制を強化し、組織の一体化を進める。

実証として示される候文の意味を取るのは、やや骨が折れるが、歴史好きの高校生くらいから、理解できる内容と思う。出来事の羅列をたどるので無く、物事の関係を読み取っていく学びは、スリリングであるし、今を生きる上でも智慧になる。願わくは、このような専門書が、図書館を丹念に回る一部の人の読み物に止まらず、安価で人目につくようになり、多くの読み手を得ることだが。