ジュリスト2018年11月 - 知財制度の新たな動き、所有者不明土地、約款2020年08月19日 13:19


ジュリスト2018年11月

特集は、「知財制度の新たな動き」。冒頭に鼎談「知的財産戦略本部の15年」。
「新しい技術が出てきた、新しいコンテンツが出てきたところは、法律が予定していなかったのだから、白紙の分野なのです。アメリカ人はこれは白地だから、自分でやってみる。文句を言われたらやめる」(P.57)
「アメリカ法では「契約を破る自由」ということがいわれておりますが、条約を破って得かどうか、と考える傾向があります。」(P.59)
などと、なかなかにアグレッシブな話が飛び出す。ハリウッドやシリコンバレーと渡り合うにはこのくらいは必要という意気込み。

連載「知的財産法とビジネスの種」では、そのハリウッドとの交渉の一端を紹介。
「映像化に関していえば著作権譲渡に限りなく近い」(P.72)。そんな条件があたりまえのように提示される。上述の意識が必要とされる所以。

新法の要点は、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の制定」。
・公益のための収容
・不法投棄等による不都合への対処
などの手当て。価値が低いなどの理由で相続手続が放置され、土地建物が放置される実情への対処の一歩。抜本的には、土地基本法等の見直しによる対処が必要、とまとめる。

連載「債権法改正と実務上の課題」では、定型約款を取り上げる。オンライン取引で、約款を読むよう迫られることの背景がよくわかる。また、不当条項と不意打ち条項を詳説。

この中で信義則の要請を次のように説明する。
「自分の利益のみを考えて、相手方の利益を配慮しないような態度は許されない」(P.96)
大企業と消費者の間の契約という局面だから通用する、とは言えるが、他方、知財の世界での獰猛な契約の世界があり、「信義則」はどこまで万国に通じるものか、悩ましい。

判例評釈では、労働契約法20条にまつわる最高裁判例がホット。社会情勢の変化に伴い拡がる再雇用や有期雇用の制度が、既存の労働制度や慣行との間で、木に竹を接ぐような建て付けになっていて難しい。

Febri休刊 - 12月にWeb媒体へ2020年08月18日 17:04


Febri休刊

電子版が今朝配信の雑誌Febri、最後に今号(Vol.62)で休刊のお知らせ。2020年12月にWeb媒体での再出発を目指すとのこと。読み物が充実していて楽しみだったが、ここしばらくは、連載が減り、寂しくなっていたので、まあ、予想されたこと。

記事広告ばかりみたいな雑誌は、メディアとしては、あまり、有意義ではないが、そうでもしないと生き残りは難しいのかも。Courrier Japonでも感じたが、Web媒体は、「編集」による付加価値が見出しにくくなるのが難点。そこらをうまく乗り切ってくれるとうれしい。

Googleなどが進める「無料」の媒体は、必要なコストを「広告」で賄うが故に、「中立」「多様」な視点を養い、維持するコストを賄えていない。既存のメディアには、「中立」「多様」な視点を提供することをうたいながら、それを「特権」として弄ぶものがある。それを良しとしない者が、「無料」の媒体で対抗してきた面もあるが、一巡した形。少なくない人が、気づき始めているが、どのような決着をみるものか。

ジュリスト2018年10月 - 商法(運送・解消関係)等の改正2020年07月24日 20:22


ジュリスト2018年10月

特集は、「商法(運送・解消関係)等の改正。普段は約款のお世話になっており、表には出てこないが、世情にあわせた改正。宅配便やフェリー乗船などの約款の背景が垣間見える。

海上保険実務に触れた一節は、英国の覇権の歴史を写し、興味を惹く。
「国際的な貨物保険や船舶保険で用いられる英文保険証券では、部分的に英国法を適用する旨約定されている(P.47)」
「輸出入等の外航貨物では、保険証券が国際的に流通するため、ロンドンの海上保険市場の約款を元にした英文保険証券が用いられている(P.47)」

コラム(P.62)では、「カスピ海の法的地位に関する条約」を取り上げる。何かと乱暴さが目立つロシアの外交ではあるが、周辺国と協議し法的な安定を目指す姿勢は共通。いろいろともくろみはありそうだけど。

連載「人生100年時代の高年齢雇用」(P.90)では、高齢者雇用の課題を整理し、将来の法整備の方向性を示す。とはいえ、急速な高齢化に、労務の制度や従業員の意識が追いつかない。労働判例研究(P.135)は、定年後再雇用を巡る争いを取り上げるが、難しさの具体例を示す。

ジュリスト2018年9月 - 労働法と独禁法の交錯2020年07月12日 21:33


ジュリスト2018年9月

特集は、「人材獲得競争と法」。公正取引委員会が2018年2月にまとめた「人材と競争政策に関する検討会報告書」を巡る議論。スポーツの世界の話もおもしろいが、フリーランスで働く人、独立自営業者にまつわる話が、働き方改革に絡んで切実。

フリーランス、独立自営業者は、事業者であり、企業と対等な立場でビジネスをする。同じ個人で働いていても、企業に雇用されている労働者とは立場が異なる。力関係の違いから来る不当な扱いに対抗するには、独禁法をはじめとする競争法の活用が必要になる。

「検討会の目的は、働く個人を守るために独禁法を適用することです。全国には6700万人の就業者がいて、380万社の企業があります。労働法も競争法も何も知らない人たちが健全に働いていくための議論なので、限られた専門家だけが内容を理解していて、その人たちだけが独禁法を使えて、あとは裁判で、では、本来の目的を果たさない(P.28)」

実際、公正取引委員会が行った、フリーランサーに対する調査(P.31)は、なかなか厳しい実情を示す。
・代金の支払い遅延が23%
・代金の減額要請が16%
・著しく低い対価での取引要請が30%
・成果物に拘わる権利等の一方的取り扱いが18%

裁判に持ち込めば勝てるにしても、費用も時間も賄えない。

一方、

「終身雇用で働いてきた正社員の3割は「契約書なんて結んだ記憶がありません」と、人材サービス産業協議会が2017年に行った「雇用区分呼称に関する休職者調査」では答えています(P.35)」

正社員がフリーランサーと仕事をする上でも、自身がフリーランサーに転ずるにおいても、契約や法律の立て付けの理解を深めないと、思わぬトラブルや不利益に遭遇する。法の整備はこれからであり、自衛もまた必要。

「時論(P.74)」では、「働き方改革」関連法案の成立を受け、実務への影響を論じる。

法案の成立により、これまでバラバラであった、パートタイム労働、有期労働、派遣労働について、いわゆる正社員との間で、統一的な均衡・均等待遇ルールを設けることになる。

ここで、「名目と実質の離れた手当、趣旨が不明瞭な手当(P.75)」が多数ある実態が問題になる。おそらく労使の長年の交渉や妥協の産物であろうこれらが、正社員とそれ以外の不合理な差別の源泉となる。ここでも問題を放置、先送りしたツケを払わされる。

昨今のリモートワークの導入でも議論が噴出したが、複雑化した仕組みを放置することで、変化や適応を鈍らせることが、競争力減退や差別や格差の増長の一番の理由ではないか。外圧に寄らずに、普段から断捨離したいもの。それができないのなら、新陳代謝。

山家集 (角川版)2020年06月04日 07:36


山家集

西行の歌集。1552首。おくのほそ道つながり。Kindle版では、分量の多いのに驚くが、歌集の本体は6割ほどまで。校訂と補注が2割。解説と地名人名一覧に句のはじまりで引ける索引で2割。補注が充実しているのはうれしいが、Kindleではいったりきたりが大変で、紙の本が優位。

西行は12世紀の人。歌集の前半は、春夏秋冬で季節の風景を詠む。次いで、恋、雑、諸々とつづく。当時の時世故か、若くして出家した本人の人生観故か、後ろ向きな句が多いが、ちょっとふざけた感じの句も紛れる。雑では、当時の時事も詠み込まれる。場所は、畿内中心だが、奥州平泉、伊勢、讃岐、などにも及ぶ。そのときどきの風景や感興をスナップショットのように切り取る。今ならば、カメラ片手にスナップショットをとり、後日、整理しながらそのときどきに思いを馳せる、そんな読後感。

先行して、おくのほそ道東関紀行、海道記などを読んでいたのが、役に立つ。それぞれの文面や地図から土地の様子を思い描いていたことで、句から浮かぶイメージが実感を伴ってくる。実際には、因果は逆なのだけど。例えば、つぎの一首。

1307 いつとなき思ひは富士のけぶりにてうち臥す床や浮島が原

思いが立ち上るのを富士山頂からの煙に例え、臥し寝の床を富士から沼津にかけての海岸沿いの低地帯に例える。

ジュリスト2018年8月 - 保険法、モバイルワーク2020年05月30日 19:43


ジュリスト2018年8月

特集は、「保険法の現状と新たな課題」。保険法制定10年を経て、実態を問う。

・告知事項には、2つの用途がある。
 1) 因果関係を問うもの。
 2) 統計的な相関関係があり、保険料の群団(クラスタ)を分けるもの。
 後者は、意識していなかったが、なるほど。タバコを吸わない、定期的に運動をしている、と安価になる保険があるが、これなんかはこちらかも。

・イギリスでは、運転データをもとに契約の解除を通告するタイプのものも登場。
 保険法が想定していない形態。データ活用の重要性がうたわれる中、類似の形態は増えていくだろうが、法の手当てはこれから。

・医療保険の適用範囲は、意外と難しい。
 医療の進歩は速く、保険対象のリストは頻繁に更新されていく。リストが約款に含まれ確定しているのか、別表に定義され改訂されていくものか。定期的な保険の見直しが必要、といわれる。どのような疾患が手当てされるか、期待と変わってきているかもしれず、これも要確認。

労働法の連載は、「サテライト・モバイルワーク」。今話題のテーマ。

・2020年7月24日は、「テレワーク・デイ」。東京オリンピックを見据えたものだが、どうなっているか。

・「モバイルワークは、(中略)、私生活の浸食力がもっとも高い働き方である(中略)、労働者が担当すべき業務量を適切なものとするように使用者に対し規制することで回避されうるが、(中略)。現行法上有効な手立てがない点にモバイルワークの怖さがあり、(P87)」
 上手に使えば、ワークライフバランスも生産性も会社の魅力も高められる可能性があるが、負の側面に対する法の手当てはこれから。

商事判例では、多忙な歯科医に信用取引を持ちかけ、1億以上の損失をもたらした事件。証券会社の営業による手数料稼ぎ。過失相殺度合いは大きいものの、損害賠償を認める。今のご時世でもこんな事件。

古文真宝 前集 上下巻2020年05月20日 17:32


古文真宝 前集 上下

古文真宝 前集、上巻と下巻。明治書院の新釈漢文大系から。年がかりでの読了。前集は詩を集め、後集は文章を集める。

原文の読みを試み、書き下し文で確認。和訳で意味を了解。語釈で原文の読みを再確認。あれば余説で豆知識。なかなかの密度。一日1、2時間の読書で、5から10ページくらい。一冊400ページくらいあるので、読み続けても1ヶ月をゆうに越える。一気呵成に読むものでもないので、年がかり。教科書だけでは進捗しなかった読解力も、さすがにこれだけかけると、原文を見て、だいぶ読めるようになってくる。

解説によると、宋末から元初にかけての成立。唐宋の詩が多くを占めるが、古くは漢の高祖の作からと幅広い収録。今の言葉で言えば、漢詩のアンソロジー。底本は、元の至正26年(1366)の刊本をもとに、国内で和刻されたもの。1366年といえば、室町の義満の治世の少し前。その後、江戸時代には、中国本土よりも国内にて人気があったとのこと。明治書院の本書は1967年の刊。

有名どころを多数収めるが、やはり、白楽天(白居易)はいい。長恨歌、琵琶行などを納める。日本語だとロマンチックに過ぎるかもしれないが、訓読体だと収まりがいい。緑や水縁が近くにないと落ち着かない性分には、陶淵明(陶潜)。酒飲みではないので、いい詩とは思っても、李太白(李白)はそこまで。杜子美(杜甫)は、勤め人には共感できるところが多い。怒られるのを覚悟でいうと、現代のサラリーマン川柳にも通じる。あわせて60余名。巻末に作者小伝を付す。

漢籍のはじめは、おそらく中高生の頃、漱石やらの明治の文豪の諸作を読む中で、男子の教養は漢籍である、との記述を見、それならばと、NHKの教育や放送大学の講座を視聴したところから。その当時、手に入れた石川忠久氏の入門書の冒頭は、孟浩然の春暁。今でも諳んじられる。この詩での「多少」は多い方の意。語の意味は変わることを知る。

そのうち、日本の古典も、と。そのひとつに枕草子。香炉峰のくだりで、白楽天につながる。今も昔も作品はつながっていくものと感得。その白楽天の名作というと、長恨歌。ただし、長大な詩なので、教科書などでは、あらましや抜粋まで。全文に当たりたいと図書館を探して、たどりついたのが古文真宝。当時、明治書院の白氏文集の該当巻は、未刊。

とはいえ、高価な本。学生時代に小遣いで手にしたのは、楚辞のみ。社会人になっても、図書館で拾い読みをするまで。それが、転職の折だったか、気を大きくしたときに入手。全集となると揃えたくもなるのが心情だが、資料として必要とするのでもなければ、この類の本は、読むことの質を考え、これぞというものをかぎりに手許に置くのがいい。

数学は言葉2020年05月03日 17:15


数学は言葉

東京図書の数学のシリーズの一冊。どの本も切り込み方がユニークで面白い

本書は、平たくいうと数学の本を読むための導入の書。本格的な数学の履修は高校まで、の身には、大学レベルの数学の本は、不明な記号やその用法、前提としている知識の欠如で、読み進むのもままならない。それの助けになりそうなのだが。

3章「和文数訳」
日本語の文を数学の表現に変える手順について。記号論理学の初歩といった内容。プログラミングにおけるアルゴリズムの生成にも通じる。プログラミングを必修にするなら、論理学も教程に加えなくては。

4章「数文和訳」
本章以降、数学の表現を日本語に変える手順について。まさに、数学の本を読むための手ほどき。とはいえ、これで、「数理科学」を読めるかと言われれば、まだ、道程は長い。

「数理科学」のコラム欄あたりで、数学者でも全てがわかるわけではない、との記事を読んだ気がするので、わからなくても当然なのかもしれないが、それでも一割もわかった気にならないのはどんなものか。

逆に、法律家の専門雑誌「ジュリスト」を、法学を学んだことのない理系の人が読んだらどうだろうか。法律の中でもやや特殊な会社法や各種訴訟法の類はともかく、そうでもなければ、半分以上は理解できるような気がする。同じ生きている社会についてものだから、そうでなければ困るか。

理数の本、わからないでも、時折、ひらめくものがあるので、やめられない。まあ、どれか教科書のひとつでも取り上げて、逐次解説してくれる本があれば、と思うが如何。